動物病院では、獣医療の発展に伴い、難治症例が増えてきました。
難治症例に必要な高度な検査や治療には、同時に麻酔を必要とすることが多く、動物病院では麻酔に対する意識が高まっています。
今回は、最近設立された動物麻酔技能認定医になるための条件やキャリア選択について詳しく解説していきます。
ぜひ一読いただき、ご自身のキャリアにお役立てください。
動物麻酔技能認定医とは
動物麻酔技能認定医は日本獣医麻酔外科学会によって作られた制度です。
動物麻酔技能認定医になると動物の麻酔疼痛管理学に関する広範な知識と技能、実践能力を備えた臨床獣医師として認定されたことになります。
動物麻酔技能認定医には基礎技能認定医と上級技能認定医があります。
2024年6月に第一回目の基礎技能認定医の試験が行われました。
動物麻酔技能認定医になると
- 麻酔科のスペシャリストとして認められる
- 重症例の麻酔に携わることができる
- 講演、執筆など仕事の幅が広がる
- 転職に有利になる
- フリーランスの獣医師として働くことができる
など様々なメリットがあります。
動物麻酔基礎技能認定医と動物麻酔上級技能認定医の違い
動物麻酔技能認定医は基礎および上級の二段階で認定を行っています。
基礎と上級ではそれぞれ以下のような違いがあります。
動物麻酔基礎技能認定医
獣医麻酔疼痛管理における基礎的知識と経験を持ち、学会が策定した指針に準じた麻酔疼痛管理を遂行できる技能を有する者
動物麻酔上級技能認定医
獣医麻酔疼痛管理における高度な専門知識と実践経験を持ち、麻酔疼痛管理において指導的役割を果たす技能を有する者
上級技能認定医の方が基礎技能認定医と比べてより知識や経験に優れた認定医と言えますね。
その分、上級技能認定医の方が認定医として認められるまでの道のりは困難です。
動物麻酔技能認定医になるための条件
ここからは動物麻酔技能認定医になるための条件について解説していきます。
動物麻酔技能認定医になるためには認定試験の受験資格を得ることと認定試験に合格することの2つが必要です。
認定試験の受験資格
認定試験の受験資格を得るための条件を動物麻酔基礎技能認定医と動物麻酔上級技能認定医に分けて、それぞれ解説していきます。
基礎認定医試験
基礎技能認定医試験の受験資格は以下の通りです。
- 獣医師免許を有すること
- 少なくとも1年超の臨床経験を有すること
- 日本獣医麻酔外科学会に所属する獣医師であること
上級認定医試験
上級技能認定医試験の受験資格は以下の通りです。
- 受験申請時点において基礎認定医資格を有し日本獣医麻酔外科学会に5年以上所属する獣医師であること
- 過去5年間(申請年の4月1日を起点とする)に以下のいずれかを満たすこと
- 学会学術集会に5回以上参加している
- 学会学術集会において麻酔関連の内容で演者として1回以上の口頭発表(若手獣医師のためのBasicセミナー含む)をしている
- 麻酔学に関する論文(英語査読あり、もしくは日本獣医麻酔外科学会誌)を1報以上発表(筆頭もしくは責任著者)している
- 学会が主催する麻酔ブートキャンプへの参加がある
基礎技能認定医では1年超の臨床経験は必要になりますが、能力や努力次第では短期間で認定医を取得することが可能です。
上級技能認定医の受験資格を得るには、まずは基礎技能認定医資格を取得し、さらに学会参加や学会での発表、論文執筆など様々な条件をクリアする必要があります。
上級技能認定医を目指す場合は計画的に準備を進めていきましょう。
認定医試験について
認定医試験の内容と提出が必要な書類は以下の通りです。
基礎認定医試験
- 認定医小委員会が実施する筆記試験
- 主として麻酔管理を担当した50症例の一覧表の審査
- 主として麻酔管理を担当した症例の麻酔記録に基づく臨床麻酔レポートの審査
- 5症例(重複しない手術・処置内容、ASA-PS1ないし2に分類される不妊手術は最大2例までとする)
上級認定医試験
- 認定医小委員会が実施する筆記試験
- 認定医小委員会が実施する口述試験
- 主として麻酔管理を担当した200症例の一覧表の審査
- 主として麻酔管理を担当した症例の麻酔記録に基づく臨床麻酔レポートの審査
- 整形外科、神経外科、開腹手術:各10症例(全30症例)
- 開胸手術、眼科手術、内視鏡検査:各5症例(全15症例)
- ASA-PS3以上に分類される手術麻酔:10症例
上記の全ての課題をクリアし動物麻酔技能認定医として認められます。
基礎技能認定医、上級技能認定医ともに多くの麻酔症例を経験し、試験を突破する必要があります。
動物麻酔技能認定医になるためのロードマップ
ここまで解説したように動物麻酔技能認定になるためには複雑な条件があります。
ここで動物麻酔技能認定医になるためにどのような就職先を選び、どのようなキャリアを歩むべきかを解説していきます。
麻酔症例が多い動物病院で働く
一般の動物病院でも勤務医として麻酔管理の経験を積むことは可能です。
認定医になるためには多くの症例を経験する必要があるので、麻酔件数が多い病院を選びましょう。
様々な患者に対応することで実践的なスキルを磨くことができます。
また、働き始めてからなるべく早い段階で麻酔を任せてもらえる病院を選択しましょう。
大学附属動物病院の研修医になる
大学病院で研修医として勤務することは、幅広い症例に触れ、高度な技術を学ぶ絶好の機会です。
多くの専門医の下で学ぶことができ、最新の麻酔技術や機器に触れることができます。
また研究に携わる機会があり、学術的な視点も養えます。
救急動物病院で働く
救急動物病院では、緊急時の麻酔管理や重症患者の管理など高度な技術が要求されます。
緊急を要する状況下での迅速な判断力や複雑な症例への対応力を身につけることができます。
生命に直結する症例の麻酔を経験することで麻酔科医としても大きくステップアップすることが可能です。
麻酔を専門とする獣医師のもとで研修する
麻酔を専門とする獣医師の下で直接指導を受けることで高度な知識と技術を効率的に習得できます。
難治性症例への対応や最新の麻酔プロトコルを習得することが可能です。
また、認定医の受験資格を得るためには麻酔レポートの提出が必要です。
麻酔レポートを作成する際に、指導を受けている獣医師に助言を求めることもできます。
勉強をする
認定医資格を取得するためには麻酔症例を経験するだけでなく、試験に合格する必要もあります。
臨床経験を積みながら、効率的に学習も進めることが求められます。
最近では、オンラインでの学習機会も増えているので積極的に活用していきましょう。
学会や外部実習に参加して、最新の知見を得たり、認定医を目指している獣医師と情報交換することも大切です。
まとめ
動物麻酔技能認定医になることには様々なメリットがあります。
近年、動物医療において麻酔科医へのニーズは高まっているので、認定医資格を取得することで収入の増加や働き方の幅が広がるでしょう。
認定医資格取得までは多くの壁を乗り越える必要がありますが、しっかり計画を立てて努力していきましょう。